VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と言われる先の見通せない環境下で、今多くのリーダーが悩み、課題を抱えながら、日々奮闘されていることと思います。
社会の複雑性と急速な変化に対応するためには、学問の枠を超えた総合的な思考力や問題解決能力が求められています。明確な答えのない時代に対処できる力を養うには、「リベラルアーツ」が必要です。「リベラルアーツ」とは、ギリシャ・ローマ時代に起源を持つ言葉で、「こうあるべき」という固定観念を廃して現代人が自由に生きていくための手段を学ぶ学問です。ある上場企業の役員であるエグゼクティブに対してコーチングした時のことです。そのエグゼクティブの方は、いわゆる一流大学を出てアメリカの大学院でMBAも取得したエリート中のエリートです。コーチングのテーマは「天命を知りたい」というものでした。
年齢はちょうど50歳になったばかりということもあり、「50歳になったものの、自分の天命というもの何か分からないので明確にしたい」というものでした。エグゼクティブとして、これまで高い実績を上げてこられているにもかかわらず、いまだ「天命」らしきものに出会っていないと感じておられるようでした。
いろいろな角度から問いを投げかけてみたところ、これまでは知識を得て目の前の課題を処理することには懸命であったものの、人生や自分自身を深く探索することはできていなかったことに気づきました。
そこで、私は『易経』という古典の中に書かれていた次の一文を紹介しました。
「『論語』に出てくる遽白玉(きょはくぎょく)という人がある。孔子は彼を賛美して、「行年50にして49年の非を知る」と言っている。40にして惑わずといいますが、人間40位になると生理的にも精神的にも、賢は賢なり、愚は愚なりにだいたい固まってしまう。つぶしがきかなくなってしまう。そして俺は先ずこんなもんだとアキラメテしまう。
・・・(中略)
真実に自己を否定して転ずるということは非常に難しいことであります。遽白玉の「行年50にして49年の非を知る」というのは、一度否定して改めて前進するということであります。
淮南子はさらにそれを発展させて「60にして60化す」と申しております。50年にして49年の非を知り益々勉強する。60になっても、60になっただけの変化をする。それでこそ天であり命を知るものである。70になっても70になっただけの変化をする。生きている限りは変化をして已まない。唯変化するだけではなく延びる。進歩である。」
(「安岡正篤 易経講座」(致知出版社)
そしてもう一冊、『中庸』の「天の命ずる、之を性と謂ふ。」という言葉を紹介して、天命について考えてもらいました。
このエグゼクティブの方の場合は、『天命』という個人的な問題がテーマでしたが、近年注目を集めているアナロジー思考やアンラーニングなど、技術や社会の急速な変化に対するビジネススキルを磨くためには、「考え抜く力」を鍛える必要があり、そのヒントが哲学にあります。
例えばドイツを代表する哲学者であるヘーゲルは、AでもBでもない、両者を統合した、まったく新たなCに移行していく。このCに移行することを「アウフヘーベン」と呼んでいます。
自分の知が否定されるような矛盾に耐えて考え抜き、悪いところは棄て、良いところは残しつつ、より高次の知を生み出していくことがアウフヘーベンであり、そのための思考法としてヘーゲルが定式化したのが弁証法です。弁証法という思考法は、既存のルールや常識を疑い、世の中の見方を変え、社会を変革していく武器になります。
リベラルアーツとコーチングを組み合わせることで、今日の複雑な時代、複雑な問題に対処する方途になると考えます。そこで、リベラルアーツ教育を取り入れた更なる高みを目指す経営者やコーチのための『シニアエグゼクティブコーチ養成講座』を開催します。
リベラルアーツ教育は、「知識の獲得」を超えて、人間としての総合的な成長を実現するものです。 専門分野に偏らず、多様な視点を持ち、現実の複雑な問題に柔軟に対応できる人材を育てていきたいと考えています。
哲学や文学、歴史などのリベラルアーツを通して、「人」「思考」「組織」「社会」に対する深い洞察力、考察力を養い、ワンランク上のコーチングができるようになることを目指します。シニアエグゼクティブコーチを目指す方には必須講座です。
福沢諭吉、岡倉天心、夏目漱石、オライリー(両効きの経営)
アダムスミス、デイビッドヒューム、 クリステンセン(ジョブ理論)
プラトン、マキャベッリ、オルテガ、野田智義
アリストテレス、東洋思想の中庸とドラッカーの経営論
フッサール、ゲーテ、羽生善治(直感力)
鈴木大拙、余白思想、ナラティブ志向
シュムペーター、ベルガンディ、 伊丹敬之(直感で発想、論理で検証、哲学で跳躍)
与謝野晶子、JSミル、フレディックラルー(ティール組織)
旧約聖書、新約聖書、古事記、内村鑑三(代表的日本人)、橋爪大三郎(不思議なキリスト教)
※シニアエグゼクティブコーチ認定資格取得のためには、上記受講の他、JEA認定マスターコーチから10時間以上スーパービジョンを受けることが必要です。
2025年6月20日(金)から
毎月第3金曜日16:00~18:00 全10回
原則としてオンライン開催ですが
時に会場開催も予定しています。